2013 年8 月30 日に10 年近くわたって検討された第三次「商標法」の法改正はようやく全国人民代表大会常務委員会の第4回会議を経て、公開された。2014年5月1日から施行されている。旧商標法に対して大幅に修正されたので、主な修正点を以下のとおりまとめた:
第八条 文字、図形、アルファベット、数字、立体的形状、色彩の組合せ及び音声等、及びこれらの組合せを含め、自然人、法人またはその他の組織の商品を他人の商品と区別できるいかなる標章も、商標として登録出願することができる。
コメント:改正後商標法では、伝統的な登録商標の種類とは異なり、音声が登録を受けることができる商標の一つとして規定された。
音声商標登録の所要書類: |
1)声明音声登録の願書 2)音声の見本 3)音声商標の説明書(音声、商標の使用方式等) |
第十四条之五項 当事者の申請に基づき、関連商標案件を処理するに際し認定の事実を必要とする場合には、著名商標の認定を行わなければならない。著名商標の認定は以下の要素を考慮して行わなければならない。
・…‥
生産者、経営者は、「著名商標」という文字を商品、商品の包装又は容器に、或いは、広告宣伝、展示及びその他の商業活動に使用してはならない。
第五十三条 本法第十四条第五項の規定に違反する場合、地方工商行政管理部門は是正を命じ、10 万元の罰金を科す。
コメント:改正前商標法(2003年実施)の馳名商標の認定制度は、権利侵害又は冒認出願を阻止するため、商標保護において積極的な規定であるが、現状では、多くの企業において、その馳名商標認定制度を利用して自社商品の広告効果または売上向上の目的で濫用されている。そこで、改正後商標法で馳名商標の保護条件を更に明確し、広告宣伝中に「馳名商標」の文字を用いてはならないと規定している。
第十五条之二項 同一または類似の商品において登録出願を行った商標が他人により先に使用された未登録商標と同一または類似であり、かつ、出願人が当該他人と前項規定以外の契約、業務取引関係またはその他の関係を有することで当該他人の商標の存在を知っている場合、当該他人が異議を申し立てた場合には、その出願を拒絶し、かつその使用を禁止する。
コメント:業務提携その他の関係により、他人が先に使用されていることを明らかに知った上での冒認的な商標出願を防止するため、新設した規定である。商標の権利者にとって、本条は冒認的出願の救済対策の一つとして、今後の適用できる範囲が拡大する。
適用条件:1)出願商標は他人の先に使用した未登録商標と、同一または類似商品について類似商標となる。2)冒認商標の出願人は商標の権利者と業務提携関係がある。即ち、貿易関係、契約などより、他人の商標を明らかに知る状況を要求する。
第二十二条 商標登録出願人は、定められた商品分類表に基づき商標を使用する商品の区分及び商品の名称を明記し、登録出願を提出しなければならない。
商標登録出願人は、一つの出願で複数区分の商品について同一商標の登録出願をすることができる。
商標登録出願等の関連書類は、書面方式または電子データ方式で提出することができる。
コメント:改正後の商標法は「一商標多区分」制を新たに採用した。一商標多区分の商標出願の官庁費用は以前(2013年10月後)と比べてほぼ変更がなく、2013年10月1日から実施された商標出願の官庁費用CNY800のままである。2区分目以降の官庁費用も、各区分について、CNY800であり、費用面においては、従来と比べて、出願人に有利になっていない。なお、一部が拒絶されたときには、分割出願制度を利用できる。
第三十三条 初歩査定を受け、公告された商標について、その公告日より3 ヵ月以内に、先行権利の権利者、利害関係者が本法第十三条第二項及び第三項、第十五条、第十六条第一項、第三十条、第三十一条、第三十二条の規定に違反したと理解する場合、または何人も本法第十条、第十一条、第十二条の規定に違反したと理解する場合、商標局に異議を申し立てることができる。公告期間が満了しても異議がなかった場合、登録を許可し、商標登録証を交付し、公告する。
コメント:改正前商標法は何人でも異議申立が可能であったことに対し、改正後商標法は、
1)相対理由を主張した異議申立人は、先行権利者又は利害関係者でなければならない;即ち、第13条(馳名商標)第2、3項、第15条(代理人又は代表者による無断出願)、第16条1項(地理的標識)、第30、31条(同一/類似商品における同一/類似商標)、第32条(先行的権利侵害、先取出願)等を基づいて提起した異議申立。
2)絶対理由を主張した異議申立人は、何人もできる。即ち、商標法第10条、第11条(識別力欠如)、第12条(機能的な立体商標)等を基づいて提起した異議申立。
第三十五条之二項 商標局が登録査定の決定を下した場合、商標登録証を交付し、かつ公告する。異議申立人が不服のある場合、本法第四十四条、第四十五条の規定に基づき、商標評審委員会に対し、当該登録商標の無効宣告を請求することができる。
三項 商標局が拒絶査定の決定を下し、被異議申立人が不服のある場合、通知を受領した日から15日以内に商標評審委員会に再審を申請することができる。商標評審委員会は申請を受領した日より12ヶ月以内に再審決定を下し、書面により異議申立人及び被異議申
立人に通知しなければならない。特殊な状況があって延長が必要な場合、国務院工商行政管理部門の許可を得て6ヶ月延長することができる。被異議申立人は商標評審委員会の決定に不服がある場合、通知を受領した日から30日以内に人民法院に提訴することができる。人民法院は第三者として訴訟に参加する旨を異議申立人に通知しなければならない。
商標評審委員会が前項の規定に従って再審を行う過程において、関連する先行権利の確定が人民法院による審理中の、あるいは、行政機関による処理中のほかの案件の結果を根拠としなければならない場合に、審査を中止することができる。中止の原因が解消された後に、審査手続を再開しなければならない。
コメント:改正商標法は異議制度が大きく変わり、公告商標に対して異議申立を提起した後、以下の二つパターンに分けられて、対応もそれぞれ異なる:
第四十条 登録商標の有効期間が満了した後も、継続して使用する必要がある場合、商標登録者は期間満了前12ヵ月以内に規定に従って更新手続を行わなければならない。この期間内に手続きが行われない場合、6ヵ月の猶予期間を与える。毎回の登録更新の有効期間は10年とし、同商標の前回の有効期間満了日の翌日から起算する。猶予期間の満了までに更新手続が行われない場合、同商標の登録は取消される。
商標局は、登録商標の更新を公告しなければならない。
コメント:改正商標法により、更新期間を期限満了日の6ヶ月前から12ヶ月以内へ変更した。
第五十八条 他人の登録商標、未登録の著名商標を企業名称の一部として使用し、公衆に誤認させた場合、不正競争行為を構成し、「中華人民共和国反不正当競争法」にしたがって処理する。
コメント:新たな不正競争行為の法律適用を明記する規定である。他人の登録商標、未登録の馳名商標を企業の商号に使用する行為が不正競争行為になり、不正競争法に適用する。
第五十九条之三項 商標登録者が商標登録出願前に、他人が既に同一または類似の商品について商標登録者より先に同登録商標と同一または類似の商標を使用し、かつ、一定の影響を有するに至っている場合、商標登録者は当該使用者によるこの商標の元の使用範囲内での継続使用を禁止することができない。ただし、当該使用者に対して適切な区別標識の付加を求めることができる。
コメント:改正後商標法第五十九条三項は、既に中国において一定の影響力のある未登録商標を保護するため、新設した規定である。その目的は、在先使用権人の善意使用を保護する。商標権者が商標登録出願する前に、他人が既に同一商品又は類似商品上に、商標権者の使用により先に、登録商標と同一又は類似しかかつ一定の影響力を有する商標である場合、登録商標専用権者は当該使用人が、原使用範囲内で継続的に当該商標を使用することを禁止する権利がない。
第六十三条 商標専用権侵害の賠償金額は、権利者が権利侵害により受けた実際の損失に基づいて確定される。実際の損失が確定できない場合、権利侵害者が権利侵害により得た利益に基づいて確定することができる。権利者の損失と権利侵害者の利益のいずれも確定することができない場合、同商標の許諾使用料の倍数を参考にして合理的に確定する。悪意的に商標専用権を侵害し、情状が重大な場合、上記方法に基づいて確定した金額の1倍以上3倍以下で賠償金額を確定することができる。賠償金額は、権利者が権利侵害行為を制止するために支払った合理的な支出を含む。
人民法院は賠償金額を確定するため、権利者が全力で挙証した上で、権利侵害行為と関係する帳簿、資料が主に権利侵害者によって掌握されている場合、権利侵害者に対し権利侵害行為に関係する帳簿、資料の提供を命じることができる。権利侵害者が提供しなく、或いは、虚偽の帳簿、資料を提供する場合、人民法院は権利者の主張及び権利者により提供された証拠を参考して賠償金額を確定することができる。
権利者が権利侵害により受けた実際の損失、権利侵害者が権利侵害により得た利益、登録商標許諾使用料のいずれも確定できない場合、人民法院が権利侵害行為の情状に基づき300 万元以下の賠償を命ずる。
コメント:改正前商標法と比べて、以下2点違いがあり:1)懲罰性賠償金の導入;2)法定賠償金の上限は50万元から300万元に増えることになる。
損害賠償金の算定方法
1)商標専用権侵害の損害賠償金は、権利者が侵害による受けた実際の損失により確定する。
2)実際の損失が確定することが困難な場合は、侵害者が侵害により得た利益により確定する。
3)権利者の損失又は侵害者が侵害により得た利益を確定することが困難な場合、当該商標の使用許諾費の倍数に基づき合理的に確定する。
4)法定賠償金:権利者が、侵害項により受けた実際の損失、侵害者が侵害により得た利益、登録商標の使用許諾費用を確定することが困難な場合、人民法院は侵害行為の状況により300万以下の損害賠償を命ずる。
第六十四条之一項 登録商標専用権者が賠償を請求し、権利侵害被告が登録商標専用権者による登録商標の不使用をもって抗弁する場合、人民法院は登録商標専用権者に対してこの直前3年間に当該登録商標が実際に使用された証拠の提供を求めることができる。登録商標専用権者はこの直前3年間に当該登録商標が実際に使用されたことを証明することができず、かつ、権利侵害行為によりその他の損失を受けたことを証明することができない場合、権利侵害被告は賠償責任を負わない。
コメント:登録商標の専用権者は、三年間に登録商標を実際に使用していないと侵害により業務上の損失が生じ得ない場合(即ち、被害の立証ができない場合)、損害賠償の請求が認められなくなる。被疑侵害者が、賠償責任を負わない。
コメント:現在の商標実務では出願から登録まで相当の期間を要する。特に商標局の異議申立、評審委員会での復審及び無効審判(争議)等の審査期間は非常に長期にわたる。改正後商標法の一つ重要なポイントは、審査期間を短縮し、各手続の審査期間は法律にて定められるようになっている。
条文 | 案件 | 審査機構 | 審査時間 |
---|---|---|---|
28 | 登録出願 | CTMO(中国商標局) | 9ヶ月 |
34 | 拒絶査定に対し不服審判(拒絶復審) | TRAB(中国商標評審委員会) | 9 ヶ月(3ヶ月延期可能) |
35.1 | 異議申立 | CTMO | 12 ヶ月(6ヶ月延期可能)) |
35.3 | 異議復審 | TRAB | 12ヶ月(6ヶ月延期可能)) |
44 | 無効審判 | TRAB | 絶対理由: 9 ヶ月(3ヶ月延期可能)) |
45 | 相対理由: 12 ヶ月(6ヶ月延期可能)) |
||
49 | 三年不使用取消請求 | CTMO | 9 ヶ月(3ヶ月延期可能)) |
54 | 三年不使用取消復審 | TRAB | 9 ヶ月(3ヶ月延期可能)) |
第十九条 商標代理機構は、信義誠実の原則に基づいて、法律、行政法規を遵守し、被代理人の委託に従って商標登録出願またはその他の商標業務を行わなければならない。代理の過程において入手した被代理人の商業秘密について、守秘義務を負う。
委託人の登録出願商標について、本法の規定によりその登録を認めてはならない可能性がある場合、商標代理機構はその旨を明確に委託人に告知しなければならない。
商標代理機構は、委託人の登録出願商標が本法第十五条及び第三十二条に定める状況に該当することを知り、或いは、知り得た場合、その委託を引き受けてはならない。
商標代理機構は自らの代理業務について商標登録を出願する以外に、その他の商標を出願してはならない。
第二十条 商標代理業界組織は規約に従い、会員加入の条件を厳格に執行し、業界自律規範に違反した会員に対し懲戒を行わなければならない。商標代理業界組織は、加入を認めた会員及び会員に対する懲戒状況について、適時に社会に公布しなければならない。
第六十八条 商標代理機構に下記行為のいずれかがある場合、工商行政管理部門により期限を定めて是正を命じ、警告を与え、1万元以上10万元以下の罰金を科し、直接に責任を負う主管責任者及びその他の直接責任者に警告を与え、5千元以上5万元以下の罰
金を科す。犯罪を構成する場合、法により刑事責任を追及する。
(一)商標業務処理の過程において、法律文書、印章、署名を偽造、変造し、或いは、偽造、変造した法律文書、印章、署名を使用すること。
(二)他の商標代理機構を中傷すること等の手段により、商標代理業務を招致し、或いは、その他の不正手段で商標代理市場の秩序を乱すこと。
(三)本法第十九条第三項、第四項の規定に違反すること。
商標代理機構に前項に定める行為があった場合、工商行政管理部門により信用記録に記入される。情状が重大な場合、商標局、商標評審委員会は共同で当該代理機構の商標代理業務に対して受理の停止を決定することができ、これを公告する。
商標代理機構が信義誠実の原則に違反し、委託人の合法的利益を侵害した場合、法により民事責任を負い、かつ商標代理業界組織により規約に従って懲戒を与える。
コメント:2001年第2回目の商標法改正とともに商標代理人制度が廃止され、だれでも商標代理業務を従事することが可能となっている。現在全国の商標代理事務所の数が7千軒以上がある。その一部事務所は悪質代理、ライバル事務所に対する誹謗などの行為があり、社会的に問題になっている。改正後商標法第19、20及び68条は、商標代理機構の商標業務に対して厳しく管理し規範する規定である。
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